フィッシュマンズの凄さとは

フィッシュマンズの凄さを語る事は難しくは無いのだけども

一つ一つ取り上げる事は大変に憂鬱というか、無茶苦茶大変な感じがして書くのも面倒とか言うとあれだけども

5年から6年前に一気にフィッシュマンズの方向に舵を切った私であるからして、

この際それを総括するのも悪くは無かろうと、わたし頑張る。


まずフィッシュマンズの音楽について語られる時にかかせないのが、

同じコード進行を繰り返すループ性であるが、

これ自体執拗にやった人自体はたぶんあまりいないものの、いち楽曲としては多々あって

例えばビートルズ「トゥモロー・ネバー・ノウズ」もその一つであるし、

例えばヴェルベット・アンダーグラウンド「ヘロイン」もその一つであるし、

ループだから凄い とはならない。


問題は、何故ループする必要があったか?

で、これは多くの3ピースバンドが抱える問題点の一つの解決の仕方として画期的だった。

彼らの「空中キャンプ」以降の楽曲では、あるループ再生されたリズムやコードの上に

ギターやベース、ドラムが鳴っているものが多く

例えば「WEATHER REPORT」という曲では、

コードを鳴らす音と、ドラムンベース的なスネアがサンプラーで繰り返されるが

単純にこれによって出音が増えていて、

それにより3ピースバンドにつきものの音のショボさを回避している。

そしてそれをする為にコード進行をループさせているのである。

これはバンドサウンドというものに新たな一石を投じたと言える発明である。


元来音楽は作曲して作詞してその上でアレンジを決めるやり方が主流で

しかしこのやり方が生まれた理由は、

ライブでの演奏が大前提としてまずあって、それを良くするにはどうするか

といった問いに対して作曲の方法を極々狭い範囲に限定する事で

コードをループしたらサンプラー鳴らしっぱなしでええやん

という実に機能的な理由において、

あえて作曲の幅を限定してしまっている訳で、

しかしながら意識して聴かなければそれがどれだけ大変な事か分からないというレベルで

それをやってのけた それが非常に凄いと言える。

最後のシングル「ゆらめきIN THE AIR」を聴けば、それがいかに大変な事か分かるだろうと思う。

あの時点でループでの作曲が限界に来ている事は、

それまでの楽曲を良く聴きこめば分かると思う。

以上がループとコード進行の面での凄さです。


次にリズム隊。

良いバンドには良いリズム隊がいるのは当然ですが、

フィッシュマンズも同様で、

彼ら二人のシャッフルコントロールは非常に巧みであり、音も唯一無二でしょう。

ベースは5弦ベースを使ってあり、音は動いているのにあまり耳に主張してこないラインなぞは、

音圧としてのベースサウンドだからというのもありますが、

実はペット・サウンズ的なサウンドのその先を見据えたものである可能性もあります。

フィッシュマンズが良く使うコードのM7(メジャーセブンス)は、

コードのルートと7番目の音が半音でぶつかる為に実に不安定ですが

ベースもルートはばんばん外すので、楽曲の調性が安定せず

実に不安定に進んでいく事が多く、そしてそれが魅力でもあります。

その辺りが良く分かる楽曲が、最後のライブアルバム「男たちの別れ」における

「いかれたベイビー」であると私は思います。

またドラムはエレクトリックタムを使ったり、

右手左手右足でシャッフルの量を微妙に変えたりする変人で、

ベースも1小節のケツだけシャッフルするとかいう変人で、

しかもそれにエンジニアのダブ処理が加わるので、ただの変態集団です。


それからまだまだ凄い部分はありますが、

最後に楽曲の構成について。

彼らの楽曲は、アコギ1本で弾いてもなかなかに楽しめるものもあるのですが、

しかしながらカラオケに適したものはあまりありません。

というのも、ライブで演奏される事が前提である為に

歌わない部分も多いし、もっと歌いたいなという部分もあっさり終わったりで

歌があくまでも一つのピースでしかなく、

故にフィッシュマンズをただの歌ものとして鑑賞すると

本質から遠ざかるのではないかと私は思います。

例えば「ナイトクルージング」は、

非常にAメロの出来が良いのですが、わずか2回でかなり短く

歌ってみるともっとAメロ歌っていたい と思うのだけれども

聴いている分には全体として調度良い感じです。

つまり演奏者としてのエゴの発露が実に不思議なバランスを持っている事が

フィッシュマンズの一筋縄ではいかない魅力に繋がっていると思います。


個人的なベストトラックは、

「バックビートにのっかって」

「WALKING IN THE RHYTHM」

「MAGIC LOVE」

「すばらしくて NICE CHOICE」

この辺りでしょうが、「空中キャンプ」以降の彼らには文句のつけようがございません


長々と失礼しました。

書き漏れた事が山のようにあるような気がしながらここで終わりますの