6月15日 夜

前日散々な目にあって帰宅したのはドラムのアフロ邸。

今までであれば私達を観に来る客なんて無かったので良かったが、

今回はお客さんを呼んである。

呼んでいるという負い目がある。

そして、ドラムのアフロ氏とベースのキューバ人は共に私のファンであって

スタジオで面白い事をやって二人に受けたからといって、それをライブでやると

彼らは演奏の上ではアイコンタクトをする事なんて無いのに、

(うわぁ、スタジオでやった奴をまたやってるぅ)

みたいな感じで顔を見合わせ、私はメンバーに嘲笑されるという事態になる。

あくまで私はその場で笑いをクリエイトしなければならない。宿命。

そして、ネタを仕込む事もまた嘲りの対象になるのであって

私は努力する事すら叶わず、ただただ本番当日の私にエールを送る事しか出来ない。

何か閃け と。

出来る事は、本番に向けて精神的にも肉体的にもコンディションを最高にしておく事だけで

ただそれだけの事実が浮かび上がって気分は沈んだ。

アフロ邸では、食後という事もあって珈琲を淹れて頂き私は一人珈琲を飲んだ。


久しぶりに会うと、最近何聴いてるの?なんてな会話をするのは当然で

カーティス・メイフィールドの1枚目、2枚目をBGMに色々と話をした。

カニエ・ウェストがサンプリングした曲を聴いたが、原曲もまた素晴らしかったが

アフロ氏は、

「カーティスのライブでメンバーが少ない奴あるけど、やっぱりしょぼいしダサかったよ」という言葉を聞いて

私は、カーティスお前もか と思った。

この時私は、3ピースという編成の基本に立ち返る事を決めた。


私がフィッシュマンズに最接近した時、音の少なさをPC音源で補い

ベースは太く低い音を鳴らす事で、ゴージャスな感じを演出してあったのだけども

今回はPCを持ち運ぶのは重いという糞みたいな理由で、

その使用を断念。変わりにアイフォンのアプリで音を鳴らすなんてな事になったのだけども

これがもう笑っちゃう位しょぼくて、今回は縁が無かったという事で とアイフォンの使用も却下。

私達は純粋な3ピースバンドに成り下がってしまった。


3ピースで音楽を成立させるのは非常に大変で、3人という人的制約は尋常では無く

仮にそれを成立させようと思った場合、

1,パンクをやる

2,ギターがジミ・ヘンドリックス

3,過去にベックボガート& アピスという名前のバンドを組んだ事がある

4,ボーカルがジミ・ヘンドリックス

このうちの一つは必ずクリアしなければならない条件であって、

唯一の例外が、ギターがエリック・クラプトンだった場合くらいのもので

私はまずベースのサウンド改革が必要だな と思った。


おい、いつまでもフィッシュマンズ気分でいるんじゃない

と私が言った結果

ベースの音がクリアになり、ブリブリになって

私はギターにコンプレッサーというエフェクターを常にかける事にしてみた。


2日目の練習はそうやって始まった。

前日に遊びでやった「抱きしめたい」をライブでやろうと言ったのはアフロ氏だった。

単純にライブ向きの曲だからであるという事と、大瀧詠一氏が亡くなった事への追悼の意味も込めて

私は歌詞を思い出しながら、歌った。

Em D A

ギターを弾きながら、踏み損ねた歪みのエフェクターが残る音で

Em D A

と弾いた時、私の頭にかすかに引っ掛かる記憶の欠片があった。

AC/DCのバック・イン・ブラックだった。

E D A

パワーコードにすればいける。瞬時に頭の中で曲が繋がっていく。

AC/DCのリフに乗るはっぴいえんどの曲は単純に面白く、演奏して楽しかった。

スタジオに入ってから初めて何かを掴んだ感触があった。

そこからは、とても良い練習になった。

猫という曲では、ベースのキューバ人が初めてコーラスに参加してくれた。

今までコーラスを頼んでも、無理という理由で断られてきたのだけども

彼は普通にコーラスマイクを立てた。

バンドの音は、一気にカラフルになった。

何より持てるカードを全て出すその気持ちに私は感動した。

充実した練習を経て、帰宅すると

アフロ氏は珈琲を淹れてくれなかったので、仕方なく自分で淹れると

全然おいしく珈琲が入らず、改めて珈琲の奥深さを知った。

次の日のライブ、何とか形になりそうな感触があり

私はその後、「蒼天航路」を7巻の呂布が死んだ辺りまで読み

前日はソファーで寝て、疲労を蓄積したのだけども

明日はライブという事で布団の上で眠る許可を得たのだけども、

ソファーで眠る大変さを知った後であるので、

変な事しないからこっちで寝れば?と言ったのだけども、

いい と断られたので私はそのまま眠った。