佐久間正英と逆アングルピッキング

私にとって佐久間正英とは、音楽を学ぶ上で非常に大切な人であった。

私が音楽を初めて意識的に聴いたのは、ボウイからで

非常に残念ながらボウイの下敷きを学校で使う位に好きだった。

中学1年生の冬休みまで私は確かに、J-POPに取り憑かれていて

ボウイの次はジギーに熱中していた。

そして、イエローモンキー経由でKISSというデコラティブなバンドを知り

私は洋楽という大きな門を叩くに至り、

節目節目の記憶しか無いが、私の音楽旅行は極めてスピーディで

熱狂に次ぐ、熱狂であり、正に音楽の虜であった。


中二の初夏になる頃、私は大きなトレードをした。

純真な同級生を騙し、

ヴァン・ヘイレン「炎の導火線」と

ジュディ・アンド・マリー「ハローオレンジサンシャイン」を交換したのである。

勿論私が出したのはヴァン・ヘイレンの方であり、

今思い出すと罪悪感で胸が一杯だが、当時も確かに罪悪感はあった。

ヴァン・ヘイレンは私の音楽的好奇心によって私の元にやってきたのだけれども、

ジュディ・アンド・マリーの方はといえば、ボーカルのYUKI様が可愛いという

ただそれだけの理由で私は聴いてみたいと思ったのであり、

非常に不純な動機に基づく取引であった。

がしかし、聴いてみたところ

悔しいけれどもこれがとても小気味よく私の心に響き、私はその後

人生初のライブ、ヴァージンをジュディ・アンド・マリーに捧げる事になるのである。

それから、ジュディ・アンド・マリーのファンになったところ

どうやらジュディマリというのはパンクというものらしいという事が分かり

私は、セックス・ピストルズを知りパンクというものの虜になった。

ビデオで見るシド・ビシャスは、ただ跳ねては唾を吐くだけの糞野郎であったが

私も中二。

ベースとは低く構えるもの

髪はツンツン立てるもの

自暴自棄であれ

そういったメッセージを受信。

中学校では坊主頭が義務付けられていたので、ヘアースタイルに関しては残念であったが

私は、ベースとは低く構えるものである そう心に刻み

高中正義的なものはダサい と決めてかかり、

当時姉がグランジにハマっていた影響からニルバーナを聴いたところ

一発でやられ、動画を見て思ったのは

やっぱり、ベースというのは低く構えるのが良いのだな という事であった。

で、

これは日本全国どこにでもあった思い込みであるのだけども

これに対して唯一警鐘を鳴らしていたのが、誰あろう佐久間正英という人なのであった。


彼を見たのは、ベースマガジンだったかGIGSだったか忘れたが

最近の子達は、ピッキングが鋭角であってよろしくないと言っていて

理想の音を出すには、逆アングルでピッキングしなければならないのだよ

そう強く言っていて、それは私の心にも強く残っている。

というのは、

楽器の位置を低く構えると、ピックで弾く際にどうしても

右手の親指が下がる形になってしまうのだけれども、

そうではなく、親指が上を向く向きで弾かなければならないのだ と言っていて、

私は、ビジュアル的には楽器の位置は下にしたいなあと思ったのだけども

今でも録音する際は、その言葉を思い出して

出来るだけ逆アングルでピッキングする様に心がけているというのも、

彼の音楽への愛が、私にまで浸透している結果であると思う。

あとは、ライブでどれだけ激しく演奏しても

楽器は動かさない様にして、体だけを動かすようにしないとダメだ とか

シド・ビシャスをヒーローとする私にはどれも耳の痛い話であり

かっこ良ければ全て良し

ロックに理論はいらない

理屈じゃねえんだロックはよう

そういった考え方に傾倒しがちだった私という人間に、

音楽というものの有り方を一番最初に示してくれた先生の様な人

それが私にとっての佐久間正英という人でありました。