父は強し

今週のお題「父との思い出」

突然鳴った電話にぎくりとし誰だろうと思って受話器を取ると、母だった。

「お父さんが事故ったみたい。今から帰るから準備しておいて。」

そりゃそうだと思った。

父は毎朝図面をハンドルの上一杯に広げ仕事場に向かうのが日課だった。

図面をちらちらと見ながら車を運転する事、子供を乗せていてもそれは行われた。

幸い私達兄弟が乗っている時の事故じゃなかったのが救いだとも言えるし、

私達が父の目になっていたからこそ事故は起こらなかったのかもしれない。

 数分後母が慌てた様子で帰宅し、私達兄弟も急いで車に乗って現場に向かった。

場所は車で5分程の近い距離だった。

遠くからパトランプの光が見え、自然と私の心は胸騒ぎした。

50m程の距離までになると、電信柱が完全に倒れているのが分かった。

車は車道を大きく外れ完全にひっくり返っていた。

あぁ、こりゃただ事じゃないな。

もしかしたら、死んだかもしれない。

心臓は勢いを増して鼓動を早く打つ。

時間は夕方、太陽の光はもう消えかかっていた。

母はとても動揺していて、そんなに子供の前で動揺するのってどうよ?と思った。

姉も弟も、うわぁとかあぁとか言葉に鳴らない音を発するだけだった。

周りには野次馬が多く集まって来ていて、居心地が悪かった。

その野次馬の人ごみの中から、

「うぇーい」

と声がした。

他人のやっかい事に進んで首を突っ込む親切なおじさんが興味本位で何か聞いてくるのだと直感した。


「いやぁー、大変だったわぁ。はっはっは」

腕を包帯で首に吊るした父だった。

こいつ無敵か?と思った。

事故現場に事故後に颯爽と現れたこの男、心配している家族を元気付けようとしているか分からないが

異常に上機嫌である。

姉が言った。

「だ、大丈夫なの?」当然の発言である。

「あぁー、もう全然。」

何故事故が起こったのかをよくよく聞くと、

普通に運転していたら、軽トラックが横から飛び出てきて咄嗟に避けたという。

警察に確認するとどうやら、その時間にそんな車は無かったという。

後続車が救急車を手配してくれたらしく、事故はその人の目の前で起こったらしい。

その人が嘘をつく理由も考えられず、私達家族は父よりもその目撃者の証言を信用した。

事故直後で頭でも打ったのだろう。

やばい

この人頭おかしくなった!

心の中ではそう思ったが、

絶対に軽トラックが飛び出て来たんだってぇ!!!

と強く訴える父の目は嘘を付いている様には見えなかった。

強く訴えれば訴える程、

頭、相当やられてるなという空気だけが強まっていった。

それから1週間経ち、2週間経ち

父の腕からは包帯もとれ、見た目は元に戻った様だった。

しかし、やはり軽トラックが飛び出てきたんだと言い続けたし

段々と本当はよそ見運転でもしていたが、恥ずかしいからそんな嘘を付いているんじゃないかと思い始めた。

ただ一つ気にかかる事それは、

事故現場の200m程先には火葬場があって、

事故が起きた日は8月の13日だったという事

それだけなのである。

我々家族の間では、幽霊を見たという事で今では意見が一致している。