パンク編

パンクがロックにとって変わったのは、1975年頃。

あの人はロックだねえ というのと、

あの人はパンクだねえ では微妙にニュアンスが違い、

パンクという形容詞で表現されるのは主に、

無茶苦茶、貧乏、後先考えない、暴力的、左翼的といったベクトルで

これはセックスピストルズのイメージがイコールそのままパンクという事である。


逆にロックであれば、

無骨、硬派、バイク、髭、サングラス、皮ジャン、ウィスキーといったベクトルで

これは九州は博多、めんたいこを食う人達のイメージそのものになる。


パンクの魅力は、そのインスタント性が全てであり

それは、楽器のスキル的な意味でも音楽性の意味でもある。

ロックバンドの始まりは、

憧れ→ギターの購入→毎日の練習→バンドの結成→バンドの練習→ライブ

であるのに対して、

パンクバンドの始まりは、

憧れ→ギターを借りる→バンドの結成→ライブ

と衝動だけで始める事が出来るのが特徴である。

その理由は、

ギター道最初の難関 Fコード がパンクには無いからで、

パンクでは通常パワーコードと言われる3度の音を省略したコードが使われるからである。

通常ギターのコードは5本か6本を指で抑えて鳴らすものであるが、

パワーコードは、3本しか抑えないで済む。

抑える指も、人差指と小指だけで済むので練習の必要が無い。

この事から、昨日まで素人の人間が今日はパンクロックの人と華麗なる転生を遂げ

これが原因で巷には腐るほどバンドが溢れかえったのである。


またパンクには、ブルーズの香りが一切無く

よってブルーズをルーツにしたソウル・ファンク・ジャズとも無縁である。

ブルーズもジャズも音階から微妙に外れてニュアンスを追求する音楽なので、

パンクにはそういったものが一切無く、極めてストレートな印象を受ける要因であろう。

そして、3度の音が無いという事は

コードからメジャーかマイナーを判断する事が出来ないという事であり

マイナーコード特有の切なさや悲しさが基本的に無く

明るい、突き抜けた、晴れ渡る、バカっぽい、直線的といった印象が持たれやすいのがパンクである。


そしてバンドを組んだ動機が基本的に思いつきである事が多いので、

作曲的な奥深さや、緻密な構成、絶妙なコードワークとは一切無縁であり

あるコードに対して、ただ一つの思いつきのメロディーがある状態がほとんどである。

それが逆に、曲の良さを際立たせるメリットになっているのが

骨格のみで装飾を排したパンクの魅力であると思う。

とここまで書いて思い出したが、

パンクの源流には、ロンドンとニューヨークがあって


バカっぽいのがロンドン

セックスピストルズ、クラッシュ、ダムド であり

知的なのがニューヨーク

テレビジョン、パティ・スミスラモーンズ(バカ)

となる。

同様に語られる二つのパンクではあるけど、ルーツは全然違って

ロンドンではパブロックの影響が元々根強くあって、そこにラモーンズが公演しにいく事で

バカとバカの幸せな出会いがあったのに対して

ニューヨークでは、ヴェルベット・アンダーグラウンドやMC5、イギー・ポップ等の

アート色があったり、元々ニューウェーブの走りみたいな事をしていたものがルーツにある為に

音楽的には実際高度だったりするので、

バカはロンドン

かしこはニューヨーク

パンクのパブリックイメージはロンドンと覚えておけば間違いない。

ではパンクの名曲を


クラッシュ「白い暴動」


パンクって実は可愛いいものなんだなと聴いたら分かりますが、

個人的にパンクと言ってイメージするのはクラッシュだったりします。

初期の3枚は特に外れが無く、良い曲ばかり詰まってるのでオススメですが

全然とんがってない音の1枚目「白い暴動」を私はプッシュします。

ドラムのスネアの音がポコポコ鳴ってて、ベースもブンブンいっておりますが

音作りの面で1990年以降のパンクとは一線を画するものになっています。

可愛いは正義 パンクについても同様です。


ラモーンズ「End of the Century」

最早パンクでも無い様な音ですが、パンクミュージシャンの作り出した

最も優れた曲の一つだと思います。

分かりやすく、ポップである これがパンクには最も必要だと思っているので

私は大好きです。


ランシド「アンド・アウト・カム・ジ・ウルブス」


最早完全に純粋なパンクではありませんが、1990年中期には

メロコアスカコアポジパン等といったリバイバル勢がたくさん出没しました。

日本では、ハイ・スタンダードやスネイルランプ

海外ではグリーンデイ、オフスプリングNOFXバッド・レリジョン等が流行しました。

グリーンデイもオフスプリングも今では中学生のマストアイテムになっていますが

ランシドが私は一番好きです。

パンクのベースには2つの種類があって、

一つは

コードのルート音をひたすらベンベンベンと弾く松井常松スタイル(ボウイ)

もう一つは、

コードの構成音を上下に動くランニングスタイル になります。

ベースが簡単な楽器だと誤解される原因にもなったのが、

前者の松井常松スタイルでこれはベース界では、

世が世なら終身刑

とまで言われています。

後者のランニングスタイルは、演奏していても楽しく

ベースは誰が弾いても一緒だよね ぷぷぷ

と揶揄される事の多いパンク界において一筋の光になりました。

ベースがメチャクチャ巧いのがランシドというバンドの一つの特徴になります。



スーパーグラススーパーグラス


少し悲しさも漂う名曲ですが、胸を掻き毟りたくなる位の

どうにもならない気持ちや、どこにも行けない切なさが感じられます。

私を含めた多くの中学生がパンクに惹かれるのは、

ひとえに学校教育があります。

毎日朝早く起きて学校に行き、授業中は終わるまでジッとしてなきゃならん。

これを7歳から18歳、多くて22歳までやる訳ですから

尾崎じゃなくても、この支配からの卒業を望むのは当然の成り行きです。

それを実際行動に移す過激派は、その後暴走族、ケツ持ち、特攻隊長、総長と出世を遂げますが

そうじゃない僕たちは、もんもんと教室の外を眺め

もし同級生にモーニング娘。がいたら とか

どうやったら世界に平和が訪れるのか とか

今大声で絶叫したらどうなるだろうか とか

現実逃避に明け暮れます。

そんな中、女王陛下糞喰らえ!と現実に言ってのけるパンクス達は

我々の目には相当眩しく、正に憧れの的になるのでした。

周りは分かっていない同級生ばかり、

話すのは昨日のテレビの話ばかり、

先公はみんな死んだ目をしてる

そんなクラスの中で居場所も無く、ここじゃないならどこでも良い!という

若者の心を捉えるのは、いつでもパンクロックなのでした。


バズコックス「シングルス ゴーイングステディ」


アイアイアイアイアイ系の曲の元祖とも言える名曲です。

ドラムのビートに非常に癖がある人達で、悪く言えば下手なんですが

突っ込み気味に入る感じが疾走感と焦燥感を感じさせてくれるのが良いです。

ちなみに、類似の曲として

があります。

今後もアイアイアイアイってな曲を聴いたら思い出してあげて下さい。


パンクは、ニューウェーブ、ハードコア、グランジ、インディー・ロック、パワーポップ

とその後色々なものに受け継がれていきますが

基本的に受け継がれたものは精神性であって、

全身ユニクロのあの人も

心はパンクかも知れない

それを忘れないで下さい